従業員が急に病気になったら (平成21年2月1日)
従業員が会社をしばらく休むケースとして、出産や病気・ケガなどがあります。
産休の場合は、代替要員の手配や業務の引継などが事前に出来るので、特に問題はないでしょう。
しかし、病気やケガは突然訪れます。
しかも、すぐに復帰できず、しばらく休むことになった場合の会社の対応は!?
たとえば、その原因が
●『業務上』の病気やケガである場合、
その休業期間中、およびその後30日間は解雇できません。(労働基準法第19条)
では、その原因が
●『業務外』の病気やケガである場合、上記のような解雇制限は残念ながらありません。
ということは、 私傷病のために労務不能になってしまうと、解雇されてしまうのでしょうか?
民法の原則では、
労働契約に基づく労務の提供が、私傷病により困難となれば、労働者の債務不履行に基づき、
会社は契約解除(普通解雇)できるのでは? と考えられています。
しかし解雇は、
・客観的に合理的な理由を欠き、
・社会通念上相当であると認められない場合は、
その権利を濫用したものとして無効。(労働契約法第16条) とされています。
したがって、「単に病気だから」という事実だけでは、解雇できません。
私傷病により、たとえ従来の業務が十分に出来なくても、
・配置転換等で労務提供が可能であり
・本人もその申出をしており
・会社もそれに対応できるのであれば、
労働者の就労を認めなければならない、としています。 (片山組事件 東京高裁 H7.3.16)
会社には、そこまでの努力が求められています。
なぜか。
解雇の、従業員に与える影響が非常に大きいからです。
たとえ会社に責任のない従業員の私傷病による労務不能であっても、
会社は安易に解雇はできないということです。
しかし通常は、休職期間を設けて様子をみます。
欠勤 ⇒ 休職 ⇒ 復職
というパターンを採ります。
そしてその間、健康保険の傷病手当金をもらいながら、ゆっくり静養することになります。
以上は、職種や業務内容が『限定されていない』場合の取扱いになります。
では逆に、職種や業務内容が『限定されている』場合の取扱いはどうなるのでしょう。
たとえば、トラック運転手。
「この私傷病では、この先、運転手としての業務は出来ないから、事務職に配置転換してほしい」旨、
従業員から申出があったとしても、先ほどと違い、会社がその申出に応じる義務はないようです。
岡田運送事件(東京地裁 H14.4.24)では、
従業員の私傷病により従来の労務が提供されず、さらに、配置転換も不可能であるならば、
就業規則の規定に基づいて解雇をしたとしても、有効。
また、休職しても復帰できる見込がないのであれば、休職を命ずることなく解雇できる、ともしています。
とはいっても、このようなケースで、解雇が無効となった事例もあります。
やはり、解雇は出来るだけ避けたほうが無難でしょうか。
今号は、私傷病による「普通解雇」をテーマにしましたが、私傷病には、必ず休職規定が絡んできます。
そして復職出来なければ退職または解雇、としているのが大半の会社でしょう。
復職できればいいですが、復職出来ずに解雇となる場合のトラブルは絶えません。
私傷病とはいっても、その症状や治癒に至るまでの期間は様々です。
過去の裁判例を踏まえ、さらに、従業員の過去の功績や今後の生活をも考慮した上での温情ある判断が、
その後のトラブルを防止するのではないでしょうか。
誰にとっても明日はわが身ですから。
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